スペシャルインタビュー
日本は捨てたものじゃない! 未来のリーダーに見る日本の可能性
松下政経塾
塾頭
金子一也 氏
Interviewer
おふぃす文筆
代表・ライター
八尋修平 氏
塾頭の傍ら「PRESIDENT STATION」のメインパーソナリティーに
今回は、「PRESIDENT STATION」でメインパーソナリティーを務める松下政経塾の金子一也塾頭にご登場いただきます。松下政経塾は、松下電器産業株式会社(現パナソニックホールディングス株式会社)の創業者・松下幸之助氏が設立した塾として知られています。金子塾頭は松下政経塾政経研究所の所長でもありますね。金子塾頭、まずは塾頭ならびに政経研究所所長の役割を簡単に教えてください。
松下政経塾は現場の責任者としてトップに塾長がいまして、学校で言う校長です。一方、塾頭は教頭のような役割です。 政経研究所は、塾生が受講するカリキュラムの編成を行っています。国家の長期ビジョンを考えて、100年単位の計画をいかにして作るかという科目や、創立者である松下幸之助塾主と彼をロールモデルにした経営を学ぶ科目などです。加えて、個々の新しいカリキュラムも開発しています。また、これらとは別に塾外での社会連携活動も所管していて、「松下幸之助杯スピーチコンテスト」や公開講座、政策提言の発表会といったイベントを行っています。
松下政経塾の概要も改めて教えていただけますか。
松下政経塾は、未来のリーダーを育成することを目的に、当時84歳だった松下幸之助塾主が1979年に設立し、翌年4月に開塾しました。 神奈川県茅ケ崎市に所在し、2万㎡という広大な敷地に本館、研修棟、寮棟、茶室、体育館などがあります。 「自修自得・現地現場」の研修方針の下、塾生は最初の2年間に基礎課程、その後2年間に実践課程、合計4年間の研修を受けます。内容は、基礎課程であればリベラルアーツや国家の基本課題研究、政治行政研修、経営実践研修、人間修養などさまざまです。入塾料や受講料などの費用はかからず、反対に塾生に対して研修や研究に必要な資金と全寮制によって寮の居室を提供しています。
どれくらいの人が入塾しているのですか?
近年は毎年1期当たり数人から十数人です。応募数は公表していませんが、例年100人~数百人の応募があります。これまで40期で合計297人の卒業生を輩出しました。
狭き門ですね。野田佳彦元首相や大臣経験者なども輩出していますが、塾生の皆さんは卒業後、主にどういった分野に進んでいるのでしょうか。
卒業生297人のうち、124人が国会議員や地方議員、首長などの政治分野に進んでいます。次いで114人が経済分野、40人が研究・教育分野、その他はマスコミなどです。 以前は国政を目指す人が多かったのですが、この10年の傾向として、地域に帰って首長などを目指す人が増えています。疲弊している地方が多い中、自分が生まれ育った故郷をよくしていこうと挑戦する卒業生が増えているのは喜ばしいことですね。
金子塾頭も卒業生ですね。
はい。私は12期生です。政経塾を卒業してから朝日大学大学院法学研究科で憲法専攻の法学修士号を取得しました。その後、2010年に松下政経塾政経研究所の所長に就任しました。 また、私は松下幸之助塾主が亡くなってからの塾生なので、残念ながら生前の松下幸之助塾主に直接会ってはいません。しかしながら、松下幸之助塾主の経営理念や人づくりの研究を今まで続けてきました。中でも松下幸之助塾主が塾生に語った言葉を集めた『リーダーになる人に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)や『松下幸之助が考えた国のかたち~「無税国家」「収益分配国家」への挑戦』(PHP研究所)といった書籍の編集に携わったおかげで、映像や資料を通して卒業生の中で最も松下幸之助塾主に触れたと自負しています。
塾頭に就任されたのはいつですか?
2018年です。私が5代目の塾頭になります。
普段は政経塾の施設の中でお仕事をされているのですね。
はい。政経研究所も私の宿舎も敷地内にあります。これは、「塾生が全寮制なのだからスタッフも塾生とともに生活してほしい」という松下幸之助塾主の考えを基にしています。通勤時間は徒歩で1分もありませんよ(笑)。
そのような中で、2022年4月に「PRESIDENT STATION」のメインパーソナリティーになられました。
私自身も2021年の11月にゲストとしてお招きいただき、番組に出演させていただきました。その後、22年1月から番組内のコーナーである「オペラ人間学」の進行を担当していましたが、3カ月がたった頃に、「本編のメインパーソナリティーをやらないか」とお話をいただいたのです。
オファーを聞いた時のお気持ちは?
正直なところ、ゲストとの対談の進行役が務まるだろうかと不安はありました。というのも、私は仕事で講義や講演をすることが多く、自分から発信することには慣れていましたが、人の話をうまく引き出すことの経験が少なかったからです。しかしながら、オファーをいただくことは、ある種の試され事だと考えることにして、チャレンジしようと決めました。
対談は当初からうまくいきましたか?
やはり最初の半年間はなかなか慣れませんでした。オペラ歌手の川越塔子さんがアシスタントを務めてくれていますが、彼女にはずいぶん助けられましたよ。今では1年半が経過して慣れることができました。
対談で工夫している点などありますか?
ゲストに気持ちよくお話ししてもらうため、毎回その人が喜びそうな“質問ネタ”を複数用意しています。 ゲストからは事前にプロフィールをいただくのですが、そこに記載がないものも含めてホームページなどを参考にバッググラウンドを知っておくようにし、対談中にタイミングを見計らってお尋ねするのです。うまくいくとゲストから「よく調べていますね」とか「分かってくれて嬉しい」といった反応をいただけます。
この1年半で約80人と対談されていますね。ゲストはどのように選ばれるのですか?
まず、私の方で1年分当たり100人をリストアップします。それから番組プロデューサーの佐竹康峰さん(元東京スター銀行会長)にリストをチェックしてもらい、精査します。このほかさまざまな方面からの推薦もあります。
最初に金子塾頭自らリストアップするのですね。
はい。年齢はなるべく50歳以下の人にし、学歴など関係なく多方面で活躍している人をリスト化しています。私自身がメディアで見聞きして興味を持った人もリストに入っていますね。 最近は「地方で頑張っている人を紹介してほしい」というニーズが高いです。また、経済関係だけでなく、例えば語学や文学といった文化関係の人も求められていますね。
総じて今までのゲストに対する印象は?
それぞれの活動内容や考えを聞くと、日本はまだ捨てたものじゃないなと思いました。また、たとえ有名でなくても、ものすごく光っている人が多く、私の方が元気をもらっています。中には出演後にテレビでも取り上げられて有名になった人もいますよ。そういった意味で、これから有名になっていく人をいち早く発掘できる喜びもありますね。
光っているというのは、例えばどんな風に感じるのですか?
声を通じてその人のパワーを感じます。「この人は何をやっても成功するだろうな」と。私は政経塾の仕事の関係で日頃から政治家や著名な企業経営者と会うことが多いですが、彼らを超えていると感じるゲストもいますね。
松下政経塾の塾生の皆さんも、それぞれに高い志があって日々学ばれていると思いますが、「PRESIDENT STATION」のゲストたちと何か共通点はありますか?
先ほど光るものを感じると述べましたが、それが1つ。もう1つは、皆さん明るくてハキハキしている点です。暗い人はいません。明るくハキハキしていることで、運を呼び込んでいると感じます。そして、皆さん素直です。松下幸之助塾主も成功の条件の1つに素直であることを挙げています。塾生たちは与えられた環境で精いっぱい取り組み、どんな状況も自分にとってプラスに転じさせることができる素質を持っています。これと同じ素質を持った人たちがゲストの中にも多いですね。
塾生やゲストを見て、今からの日本に必要なリーダー像は何だと思われますか?
色々なデータ等で客観的に見ると、これからの日本はほとんどの分野で右肩下がりになっていきます。都市部を見ても右肩下がりですし、地方は本当に疲弊している。そういった状況だからこそ、明るくガッツがある人が必要になってくると思います。 ポイントは物の見方、考え方です。「これから日本はどんどん悪くなる」とあおる人もいますが、そうではなくて、「悪い状況でも、こういうやり方をしたら良くなる」という発想の転換、ブレークスルーを図ることができる人がリーダーであるべきです。自らリスクと向き合い、「私が先頭に立って走るので、みんなも付いてきてね」と言える人ですね。 「PRESIDENT STATION」のゲストの皆さんは、多くがそのような人たちなので、前述したように日本はまだ捨てたものじゃないなと感じたのです。
ここからは金子塾頭の音楽体験についてお聞きします。小学生の頃からクラシックを聴いていたそうですね。ご両親の影響ですか?
両親もそうですが、親類にも音楽関係の人間はいません。自宅にピアノもありませんでした。ですから、自分でもなぜクラシックを聴き始めたのか分からないですね。突然変異かな(笑)。好きが高じてか、中学3年と高校2年の時、クラス対抗の合唱コンクールで指揮者を務めましたが、どちらも優勝しましたよ。
すごい! 元々から才能をお持ちだったのでは?
高校時代にも先生から「音楽をやれ」、「芸大に行け」と勧められました。ただ、当時に改めて名のあるクラシックを聴いてみて、「これは天才の世界で僕にはとても無理だ」と思いましたね。以来、自分でするのはやめて、専ら聴く方になりました。
「PRESIDENT STATION」の番組内でも、「オペラ人間学」や、その後継コーナーである「クラシック音楽の楽しみ方」で、金子塾頭自ら多数の曲をご紹介してくださっています。同コーナーの今後のご予定は?
10月からソプラノ歌手マリア・カラスを特集します。彼女は20世紀最高のソプラノ歌手として知られ、今年12月で生誕100年を迎えます。マリア・カラスがいかにしてマリア・カラスとなったのか。天性のものもあるでしょうけど、どんな努力をしたのか。そういったことを12回にわたって紹介していきます。 今まさに特集の準備中で、私も彼女について勉強しなおしているところです。10分のコーナーなので、5分で彼女について解説し、残り5分で彼女の歌をかけます。CDも新しいものを買い足して50枚ほど用意しました。いい特集にしようと思うので、ご期待ください。
それは楽しみですね。今回は貴重なお話をいただきまして、ありがとうございました。
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